要請書(わが国の動物福祉法制のあり方について)
平成11年1月22日
自由民主党環境部会
部会長 鈴 木 恒 夫 殿
社団法人 日本獣医師会
会 長 杉 山 文 男
わが国における動物福祉に関する法律として,動物の保護及び管理に関する法律(昭和48年法律第105号。以下「法」という。)がありますが、今日、動物特に犬や猫に対する一般社会の認譲は,単なる愛玩動物ではなく、家族の一員,人生の伴侶として位置付けられるようになる等、法制定時とは大きく様変わりしてきております。
そのような反面、近時、無責任な飼い主による犬や猫の遺棄あるいは不適切な飼育管理が新聞等で頻繁に取り上けられるようになり、また、学校で飼育されている小動物等が虐待される事件も発生する等、わが国社会の病理現象の一つの現れとも言える事例が見られることは.誠に憂慮に堪えないところです。
以上のような背景を踏まえ、貴部会におかれましては,法改正を目指して平成I0年1月、「動物愛護と管理に関する小委員会」を設置され、関係団体の意見を聴取する等積極的に対応されているこは、誠に時宜を得たものと深く敬意を表する次第です。
さて、平成10年4月23日に開催された、第4回小委員会におきましては、小職が若千意見を述べさせていただいたどころですが、その際、同委員会から日本獣医師会としての意見、要望があれば提出するよう承ったところです。
日本獣医師会では、平成10年7月に「動物福祉の増進に関する検討会」(委員長:正田陽一・東京大学名誉教授〕を設置してわが国における今後の動物福祉法制のあり方について鋭意検討を行い、その検討結果を別添のとおりとりまとめました。
つきましては、同検討会報告書の趣旨等につきましてご理解を賜り、その内容を法改正に十分に反映していただきたく要請します。
(本要請書提出先)
自由民主党環境部会「動物愛護と管理に関する小委員会」委員長 杉浦正健 殿
自由民主党政務調査会長 池田行彦 殿
自由民生党政務調査会会長代理 丹羽雄哉 殿
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別 添
わが国の動物福祉法制のあり方
(動物福祉の増進に関する検討会報告書)
はじめに
わが国における動物福祉に関する法律として、動物の保護及び管理に関する法律(昭和48年法律第105号、以下「法」という。)があるが、今日、動物特に犬や描に対する一般社会の認識は、法制定時とは大きく様変わりしている。
かっては、牛や馬等の産業動物が、動物の中で特に重要な存在であったが、今日では、それらに加え、犬や猫等の愛玩動物(ペット)が、飼育頭数や人々の生活との関係で重要性を高め、人生の伴侶、コンパニオンアニマルという呼称に象徴されるように、必要不可欠の存在になりつつある。核家族化、少子高齢化等を考慮すると、そのような傾向は、今後益々強まるものと考えられる。
一方、「動物福祉」の基本的な概念については、日本獣医師会も加入している世界獣医学協会(WVA)が、動物行動学の知見に基づき、・飢え及び渇きからの解放、・肉体的不快感及び苦痛からの解放、・傷害及び疾病からの解放、・恐怖及び精神的苦痛からの解放、・本来の行動様式に従う自由、の5項目を示している。
しかし、動物に対する社会の応接は、未だ不十分、不適切なものが少なくないうえ、一部の心ない人による動物虐待行為や、無責任な飼い主による動物の遺棄も跡を絶たない。
このような状況の中で、法の見直しも含め、動物福祉法制のあり方について検討の気運が高まっているが、動物の医療、保健衛生指導及び飼育指導について社会的責任を有すろ獣医師の職域団体として、社団法人日本獣医師会では、平成10年7月に動物福祉の増進に関する検討会を設置し、上記世界獣医学協会の動物福祉の基本的な概念を踏まえて、わが国における今後の動物福祉法制のあり方について、法の見直しを合め、鋭意検討を行い、その検討結果を以下のとおりとりまとめた。
1.法の名称並びに全体構成について
法の名称を「動物の愛護及び適正飼育に関する法律」に改めたうえ、略称を「動物愛護法」とする。そして、内容も愛護に関するものと、適正飼育に関するものとに整理する。
【理由】
・現行法は、その名称から内容が判りにくく、馴染みにくいという声があることから、理解が容易で一般社会に浸透しやすい名称に改める必要がある。
・今日、動物愛護に関する施策の強化等が強く求められていることとの関係で、飼い主の責任をも含めて、適正飼育をいま以上に明確にする必要がある。
2.法文の平易化について
法文を可能なかぎり平易なものにする。
【理由】
多くの国民に、この法律を理解してもらうために法文の平易化が必要である。とりわけ、教育の場などで、動物愛護思想や適正飼育について、法の基本趣旨が普及できるようにする。
3.前文について
法に前文を設け、その中で基本理念として、「動物は命あるもの」との趣旨を明確にするとともに、人と動物の共生の必要性をうたう。
【理由】
動物の一般的な法的位置付けは、いわゆる「物」であり、これを単に「物ではない」として取り扱った場合、わが国の法体系全般との関係で問題が生じる。他方で、命ある動物を単純に「物」として割り切ることは、大部分の国民感情に反する。その調和を個々の条立で図ることは困難であるので、前文にその役割を果たさせるのが適当である。
4.動物愛護思想の普及、定着について
動物愛護週間を、いま以上に実効性がある中身にする。そのために、学校教育上の工夫、動物愛護関係団体に対する資金上の支援等について、法制度も含め適切な処置を講ずる。
【理由】
・動物愛護の基本的かつ重要な課題は、いかにして国民に広く動物愛護思想を定着させていくかにあるが、この方策については、法では動物愛護週間を定めているのみで、動物愛護思想の普及・啓発活動を法律上積極的に支援する体制を構築する必要がある。
・特に動物に対する関心は幼児期から芽生え、急速に成長することから、この時期から適切な教育を行っていく必要がある。
・また、動物愛護思想の普及・啓発等、動物愛護活動を推進するうえで、民間の関係団体が果たすべき役割は大きいが、それら団体は、いずれも財政基般が弱いことから十分な活動を行うことが困難な状況にある。一方、動物愛護関係団体に対する寄付金は、課税対象となることから、それらの団体は一般からの寄付を受けにくい状況となっている。このため、動物愛護関係団体に対する寄付金については、免税措置等を講じることにより寄付を受けやすい環境を整備して、その財政基盤を強化、確立する必要がある。
5.適正飼育と飼い主の責任について
適正飼育の内容とともに、飼い主の責任をより明確化する。また、不適正な飼育や遺棄に対し罰則強化等、適切な処置を講ずる。
【理由】
・少子・高齢化社会等による人々の価値観の変化等から、動物愛護に対する関心が高まってきている中で、現在のわが国における犬や猫の飼育状況は、飼育数の増加や飼育動物種の多様化が見られるが、一方では、動物による人への危害や迷惑の防止等、良好な生活環境の保持の面から飼い主の自覚と責任ある飼育を求める声が強くなっている。それに対応するため、違反飼い主に対しては、罰則強化も含め、適切な処置を講ずる必要がある。
・さらに、飼い主の責任をまっとうさせる方法として、個体識別技術を導人する必要がある。それにより、遺棄の防止を含めさまざまなプラスの効果が期待できる。それに対しマイナス面は極めて少ない。
6.犬及び猫の引取りについて
法で、都道府県知事に義務付けられている「犬及び猫の引取り」については、次のことを検討する。
・引取りの制限
・引取り対象動物の拡大
・動物譲渡の機会拡大策
・飼い主の責任による安楽死処分の根拠及び方法
【理由】
終生飼育や動物福祉の視点から、安易な引取りを防止し、動物愛護の精神と生命尊重の気運を高めるため、上記のことを検討する必要がある。
7.虐待の定義と罰則強化について
虐待の定義については、改正法では基本的な考え方として「動物をみだりに殺し、傷つけ、又は精神的、肉体的に不必要な苦痛を与えること」というように概括的に規定するとともに、動物の種類別、用途別に応じた虐待の定義を別に規定する。また、罰則を強化するとともに、適正に適用できるよう工夫する。
【理由】
現行法が十分に機能していないと言われる最大の理由は、虐待に対して適切な対処がなされていないところにある。それを改善するためには、上記のように改正する必要がある。
8.動物保護監視員(仮称)及び動物愛護指導員(仮称)制度の創設について
動物保護監視員(仮称)及び動物愛護指導員(仮称)の設置を制度化する。
動物保護監視員(仮称)は、国及び部道府県の専門的知識を有する公務員の中から任命し、立入調査等、一定の権限を付与する。
動物愛護指導員(仮称)は,動物保護監視員(仮称)に協カするため,動物愛護に関心が高く、必要かつ十分な知識、経験を有する民間人の中から都道府県知事等が委嘱する。
【理由】
動物愛護思想及び適正飼育の普及・啓発を図るとともに、動物の遺棄や虐待の防止及びその摘発の有効な体制を確立する必要がある。
9.法の改正に伴う関連法規の整備について
現行諸法規の点検
法の改正に伴い、その趣旨を関連法令にも反映させる。
動物取り扱い業法(仮称)の制定
動物取り扱い業者には問題が多いので、その問題をなくし,動物愛護思想を業者にも反映させる。
ペット動物の登録制度
個体識別,税制等,動物愛護法の趣旨を広く浸透させるために必要な手当てを行う。
野生動物の飼育規制
野生動物の一般家庭での飼育については問題が多いので,一定の飼育規制等を講ずる必要がある.
以 上
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参 考
動物福祉の増進に関する検討会委員名簿
平成10年12月
日本獣医師会
池 澤 聖 明(学校法人 麻布獣医学園事務局長)
◎正 田 陽 一(東京大学名誉教授)
鈴 木 一 則(社団法人 日本動物保護管理協会副会長)
辻 弘 一(社団法人 東京都獣医師会副会長)
旗 谷 昌 彦(社団法人 神戸市獣医師会会長)
馬 場 錬 成(読売新聞社論説委員)
林 良 博(東京大学大学院農学生命科学研究科教授)
前 島 一 淑(慶應義塾大学医学部教授)
松 山 茂(社団法人 日本獣医師会専務理事)
山 口 安 夫(社団法人 日本動物保護管理協会事務局長)
山 崎 恵 子(ペット研究会「互」主宰)
○吉 田 真 澄(同志社大学法学部教授)
(以上12名,五十音順)
注:◎印は委員長、○印は副委員長。
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