17年目のペットロス

    17年めのペット・ロス 〜犬はみんな、天使になる〜
 
 ふとした瞬間、胸の奥から熱いものがこみ上げてくることがあります。喉の奥でそ
の名前を呟いてみるだけで、いとおしさがこみ上げて胸がはちきれそうになる。心に
浮かぶ場面は様々だけれど、主役はいつも同じ、18年間を共に生きた犬、私の大切
なポゴです。
 
 彼が自慢の俊足で私を追い越し、旅立ってしまってから、もう16年が過ぎます。
あのときは本当に、どうしたらいいか分からず、ただただ自分の身体の一部を無くし
た喪失感に苛まれていました。今ならペット・ロスといわれるでしょうが、当時はそ
んな言葉はありませんでした。哀しい色の薄いヴェールに覆われているような、ぼん
やりとした毎日。喜びも、悲しみも、痛みさえ、なんの感情も気持ちの揺れもない。
周囲の人間はどうして慰めてよいやら……だって、かりん糖を見ても、
「ポゴのウンチみたいだ……」
 
 と、泣き出すのですから。今なら笑い話ですが、一事が万事この調子、本当のこと
です。
 気持ちの整理をし、自分を見つめ直そうとしたとき、自分を包んでいる周囲の優し
さに気づきました。その瞬間が新しいスタートとなりました。
 
 落ちこぼれ小学生だった私と、子犬のポゴが過ごした日々、出逢った出来事を綴っ
た本、”犬語でI LOVE YOU”を書いたのは、そんな頃です。出版直後より、読者の
方たちからたくさんのお手紙やお電話をちょうだいしました。どの方も本当に、心の
底からご自分の犬や猫を愛しておられ、その大半は彼らに死なれて、というものでし
た。以来、現在に至るまで、その方たちと哀しみを話し合い、分かち合っています。
 一点の曇りもない心でそれほど愛せる相手はそうはいない。だからそういう相手に
めぐり会えたという事実だけで、相当に幸せなことなのです。
 
 反面、その対象を持ってしまった哀しみは、恐ろしいほどです。いつか訪れる別れ
の時を瞬間考えただけで、今度は胸が潰れそうになるのだから。そして、別れが現実
のものとなってしまうと、これはもう何とも筆舌尽くしがたいもの。出会ったことも
、自分が取り残されて生きていることすらも恨みたくなってしまう。  
 動物との別れをこんな風に表現するのを理解しない方達も多いことでしょう。私は
その方達も理解します。  
 16年前、私は最愛の犬をなくし、身体の一部を失ったような喪失感に見舞われ、
暫くの間は薄い靄のかかった世界にそうっと息をつめて生きていました。本物の悲し
みなんてそう簡単に慰められるものではない。ただじっと身体を低くして、頭の上を
時間が過ぎるのを待つしかない。そうしているうち、畳の一目ずつ癒される……決し
てゼロにはならないけれど。
 
 宝物は、消えて無くなったのではないのです。寧ろすっぽりと、丸ごと、心の中に
沁み入ったのです。犬や猫に死なれて、身も世もなく泣いている人を見るのは辛い。
けれどそこまで愛された彼らは、なんと平和に、速やかに天使になったことか!
 
 どうぞ、涙が枯れるまで泣いて下さい。そして泣いているご自分を責めないで下さ
い。彼らにしてあげられなかったこと、してしまったことを悔やむのもおしまいにし
ましょう。彼らは天使だから、そんなこと何とも思っていません。もっと大切にして
あげれば良かったと思うなら、今からでも遅くありません。
「いい子ね」
 
 と心の中で強く思えば、それは伝わります。だって彼らは、あなたの心に、周りに
、いつもいる天使なのですから。たとえ今、死んでしまいたいほど悲しくても、出逢
えたことと、一緒に過ごした長い時間を思い出して下さい。感謝しかないはず。あな
たに愛された彼らは、彼らに愛されたあなたと同じくらいに幸せだったこと、どうぞ
信じて下さい。
 
 これは決して、決して、終わりではないのです。永遠のお別れでもありません。ま
た次の時にも、きっと一緒だよという約束の時なのです。見たり触れたり出来なくて
も、確かに愛や、心や、思いやりや、優しさが存在するように、真実だと信じましょう。
 痛みも不安も、何故あんなに素直に受け入れるのでしょうね。驚いたような瞳で見
上げる様子に、その健気さに返ってつらくなるときがあります。どうして彼らは取り
乱したりせずに自分の運命を無理なく受けとめることが出来るのでしょうね。その潔
さは尊敬に値します。でも、抱き上げたとき、私の腕に触れるその子の腕が、歩く度
にぽんぽんと軽く触ってきて、あまりの軽さ、頼りなさに泣いたことがあります。つ
まり一緒に凛々しく残された時間を過ごすことは出来ないのです。私の方はちょっと
したことにビクビクして、心配して、心細くて仕方がないのです。
 
 ……ごめんね、だらしがなくて。
 頑張るのはものすごく大変なことだから、むやみに人に頑張れとは言えません。で
も、頑張らなきゃいけないときもある。
 いつか必ず訪れる”その時”を、先回りして悲しむのは止めましょう。でも無理に
悲しみを自分の中に押し込めるのもナンセンス。私なんかペット・ロス歴17年です。
 私たちの”その時”、彼らが道案内をしてくれるのだと思っています。